く他人でもあるようだし、隔てのないほどにあまえた口を利《き》くかと思えば、全く改まった扱いをしているのを見ることもあるし――私たちの間だって、つまり主人の後家さんの性質や、心持まで、ちゃんとのみこんでいながら、その心持で外《そ》らさず附合っているのかと思えば、全くその辺のことは御存じがなく、ただ自分は、むずかしい御主人のお供をして来ているのだとばっかり、信じきっているようでもある。
お雪ちゃんという子はわからない子だ、と浅吉は、これまでも幾度か首をひねらせられたのですが、今という今、ほんとに憎らしい子だ、と思いはじめました。
けれどもなお、一枚一枚と見てゆくうちに、お雪ちゃんを憎らしいと思う心が、いつか知らず絵本の中の主人公に溶け込んで、ついには今様源氏の光《ひかる》の君《きみ》が憎らしくなりました。女という女から可愛がったり、可愛がられたり、さして深い煩悩《ぼんのう》も感ぜず、大した罪という自覚もないくらいだから、罪も作らず、最後には自分の可愛がった女を集めて、いちいちに局《つぼね》を与え、それに花を作らせて楽しむという生涯。男と生れたからには、この光源氏の君のようなのが男冥利《
前へ
次へ
全322ページ中270ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング