ざか》、穂高、槍、大天井あたりの景色を見せたら、仰天して、心臓を破裂させてしまうかも知れない。妙義だって、よくは見ていないのだ……雲霧晦冥《うんむかいめい》の時の妙義を、上州と信濃のある地点から見て見給え、とても、耶馬渓あたりの比ではないのだよ」
「時に、四面もうみな雪ですね」
「ああ、四面みな雪で懐ろだけが、こうしてあたたまっている」
 二人は猪をパクつきながら、一盞《いっさん》を試みている。

 万葉集を行李《こうり》の中から取り出して、ここに持ち来すべく出て行ったお雪は、廊下でバッタリと男妾《おとこめかけ》の浅吉に出逢いました。
 浅吉は、気の抜けたような面《かお》をして、手に櫛箱《くしばこ》を提げながら、通りかかって来たものですから、
「浅吉さん、どちらへ」
「お雪ちゃん、お寒くなりましたね」
「ええ、寒くなりました、お風呂ですか」
「いいえ、これから、あなたのところへお伺いしようと思っているところです」
「そうですか……」
と言ってお雪は、浅吉の手に抱えている櫛箱に眼をつけますと、
「お内儀《かみ》さんにいいつけられたものですから、仕方なしに……」
「何ですか、浅吉さん」

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