れを読み砕いてみましょうか」
「お待ち下さい、今、本を持って来てみますから」
 お雪は欣然《きんぜん》として、立って本を取りに自分の部屋へ出かけました。
 そのあとで、猪《いのしし》が煮え出したものですから、池田良斎といわれたのは箸の先で、ちょいとつまんで風味を試み、
「うまい」
と言いました。北原謙次が、
「山陽の耶馬渓図巻《やばけいずかん》の記を読むと、猪を食うところがありますね」
「そうそう、今でもそのあとに、喫猪亭《きっちょてい》というのがある」
「耶馬渓へおいでになりましたか」
「行きました」
「どうですか、いいところですか」
「そうさ、人によってだが、わたしはあまり好かないよ。山陽にいわせると、天下第一等のところになっているが、山陽という男が、その実あんまり歩いてはいないのだからな。それに漢学者流の誇張で書きまくっているのだから、行って見て感心する人より、失望する者が多いだろう」
「山陽は足跡《そくせき》海内《かいだい》にあまねしとか、半ばすとか自慢をしていますが、この辺までは来たことはないでしょう」
「ないとも。耶馬渓を見てさえあのくらいだから、この辺から神高坂《かみこう
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