手でございます」
こういって、旅の男は、スタスタと本堂の方へ行ってしまいました。
その後で、弁信は何か一思案ありそうな面《かお》をして、
「もう暗いはず、灯《あかり》が無くて見えるか知ら」
本堂へ廻って行った旅の人は、この薄暗い空気の中で、建築の模様を眺めながら、ジリジリと堂をめぐって、早くも背面へまわりました。
その時分になって、縁の下から面《かお》を出した茂太郎が、
「弁信さん」
「なに」
「今の人は、もう行ってしまったかい」
「まだ裏の方を見ているでしょう。お前隠れなくてもいいじゃないかね」
「だって……弁信さん、あれはいやな奴だよ、あれはね、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵といって、両国橋にいる時に、よくやって来た、いやな奴だ。あたいを捕《つか》まえに来たんじゃないか知ら」
「そうかね、そんな人だったの。でも、旅の大工だといっているから」
「大工じゃない、遊び人なんだよ。何しに来たんだろう、気をおつけ」
「そうね」
二人は、そのいやな奴が何しにここへ来たかを解《げ》しかねて、気味悪く思いました。
がんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵とてもまた、すでに机竜之助
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