は風のように去る男が、今度は動こうともしないで、その一室をわが物ときめこんで、割拠して敢《あえ》てくだらず、という意気込みです。
 そうして、夜になると、蝋燭をともしてザラリザラリとキザな音をさせる。
 これは相変らず、金銀、小粒、豆板、南鐐《なんりょう》、取交ぜた銭勘定をしているに違いないが、金に渇えているお絹にとっては、この音が気障《きざ》でたまらない。
 そこで、この屋敷が、これだけでも、以前の染井の化物屋敷に劣らぬ怪物の巣となりつつあることがわかります。

         二十八

 今日は夕焼のことに赤い日。葉鶏頭《はげいとう》の多い月見寺の庭を、ゆきつ、もどりつしている清澄の茂太郎は、片手に般若《はんにゃ》の面《めん》を抱えながら、器量いっぱいの声で、
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やれ行け
それ行け
早駕籠《はやかご》で……
早駕籠で……
赤いもんどの
暁《あけ》の鐘《かね》
そりゃ、暁の鐘
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と歌いながら、夕焼に赤い西の空に向って、歩調を練習する兵隊さんの足どりで、行きつ、戻りつしていましたが、またも繰返して、
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やれ行け
それ
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