て、それからひとつ、あの千隆寺へ行ってみようかとこう思いまして、穏かに上ったつもりなのですが……」
「千隆寺?」
 その時、神尾主膳は忘れていた記憶が蘇《よみがえ》って来たものと見え、
「うむ、千隆寺」
と叫んで歯噛みをしました。
「その千隆寺へ、実は七兵衛が、お絹様のおともをして行ってみたかったんです、ところが、どうも、そうはいきそうもございませんものですから、あなた様と御相談をした上で、ひとつ搦手《からめて》から乗込んでみようと、こう思いついて上ったのに、いきなり槍玉の御馳走は驚きました」
 木の上で七兵衛は、なるべく低い声で、ものやわらかに言いますと、主膳の逆上がいくらか引下ったと見えて、
「うむ、では、貴様は盗賊ではなかったのか」
「ええ、まあ、そういうわけでございます」
「では、下りて来い」
「いや、お待ち下さい、もう少し上ってみましょう、千隆寺の庭がここで眼の下に見えますから……」
 なるほど、この御行《おぎょう》の松の上へのぼると、呉竹《くれたけ》の根岸の里の寺々がよく見えます。
 円光寺も見える。正燈寺も見える。金杉の安楽寺までが、それぞれ相当に高い甍《いらか》を見せて
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