ごぜん》の言いつけでございます」
「それは有難うございます」
 護摩の席が終ったあとで、帰ろうとするお絹を、こういって番僧がひきとめたものですから、お絹が喜びました。
 書院に待たせられていると、ほどなく例の千隆寺の若い住職が、まばゆいほど紅《くれない》の法衣をそのままで、極めてくつろいだ面色《かおいろ》をして現われ、
「お待たせ致しました」
「先日は失礼致しました」
「いや、拙僧こそ。あの時は多忙にとりまぎれて、余儀なく失礼を仕《つかまつ》りました、今日はごゆるりと、お話を承りたいと存じます」
「はい……」
 お絹はどこまでも殊勝な面色《かおいろ》と、武家の奥様という品格を崩さないつもりで、身の上話をはじめました。
 この身の上話は、ここに通いはじめた最初から用意をして来たのですが、今日まで直接に住職に打明ける機会を与えられなかったものです。
「おはずかしい次第でございますが、わたくしが不束《ふつつか》なばっかりに、主人の心を慰めることができません、連添って十年にもなりますが、子というものが出来ませんので、夫婦の中の愛情に変りはございませんが、家名のことを考えますると……」
「御尤《
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