いました。
 与八のきざむ仏像――実は菩薩《ぼさつ》は大抵お地蔵様に限られているようです。お地蔵様以外のものを刻んだのを見たこともないし、また刻めもすまいと思われる。そのお地蔵様も、木よりは石が多いのです。
 ともかく、ひまに任せてはこうしてお地蔵様を刻んでいるから、その作り上げた数も少ないことではあるまい。これは皆、しかるべき需要者があってする仕事で、これだけでもけっこう商売になりそうですが、与八はこれで金儲《かねもう》けをしている様子もありません。
 与八さんの刻んだお地蔵は相好《そうごう》がいい……と人が賞美して、註文がしきりに来る。
 また、与八さんのこしらえたお地蔵様は功徳《くどく》がある……といって依頼者がつづいて来る。そういうわけで、それからそれと、与八にお地蔵様を刻ませることになったのですが、それを与八が引受けて、山の仕事と、畑と、水車と、子守と、学校との余暇、雨の降る日などを選んでとりかかる。
 百年の後、木食上人《もくじきしょうにん》の稚拙なる彫刻がもてはやさるるところを以て見れば、与八の彫刻にも取るべきところがあるかも知れないが、今のところではそう感心したものでは
前へ 次へ
全322ページ中190ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング