れだけ聞けば、全然得るところがなかったとはいえない。
 そうするとお銀様は、十七八になるお雪という娘の骨を、食い裂いてやりたいほど憎らしくなりました。
「おばさん、お前はなぜ頭巾《ずきん》をかぶっているの……?」
 その時、不意に茂太郎が反問しました。
「これはね――」
 お銀様は行燈《あんどん》の方へまとも[#「まとも」に傍点]に面《おもて》を向けて、
「お前さん、わたしの面《かお》を見たいの?」
といいました。
「見たかないけれど、家の中で頭巾をかぶっているのはおかしいじゃないか」
「お前、おばさんの面《かお》が見たいんでしょう、見たければ見せて上げましょうか」
「見たかないけれど……」
「見たいんでしょう……」
といって、お銀様は膝を進ませて茂太郎の手を取りました。
「見たければいくらでも見せて上げるから、この頭巾の紐《ひも》を解いて頂戴……」
「だって……」
「いい児だから解いて頂戴……」
 お銀様は茂太郎を膝の上へ抱き上げ、そうしてあわただしく自分の頭巾を取ってしまいました。
「おばさん、何をするの」
 清澄の茂太郎がもが[#「もが」に傍点]くと、お銀様は、
「何もしやしませ
前へ 次へ
全322ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング