ん、わたしは鬼子母神《きしもじん》の生れ変りですからね」
といって、放そうとはしませんから、
「いやだ、いやだよ、おばさん」
「怖《こわ》かありませんよ、鬼子母神は人の子を取って食べるのですけれども、わたしは食べやしません、可愛がるだけなのよ、わたしは千人の子供を可愛がってみたい」
「いやだってば、おばさん」
「いいのよ、わたしの面《かお》をごらん」
「え」
といって茂太郎は、頬摺《ほおず》りをするほどさしつけたお銀様の面《かお》を見つめると、
「怖《こわ》い面でしょう、わたしの面は……」
 人に隠して見せまいとつとめた自分の面を、この時に限ってお銀様は、打開いて茂太郎に見せようとします。
 満面が焼けただれて、白眼勝《しろめが》ちの眼が恨みを含んで、呪《のろ》いそのもののような面をまとも[#「まとも」に傍点]に見た人は、誰でもゾッとして身の毛をよだて[#「よだて」に傍点]ないものはありません。しかし茂太郎は、それを怖れないでうるさ[#「うるさ」に傍点]がり、
「怖かありません、おばさんの面は怖くないけれども、こうやって抱かれるのが窮屈でならない、放して下さい」
「お前、ほんとうに、わ
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