は、いまもここにいて……?」
「いいえ……」
 茂太郎が頭を振るのを、お銀様は透《す》かさず追いかけました。
「此寺《ここ》にはいないの?」
「ええ、この間までいましたけれど……」
「この間まで……そうして、今どこへ行ったの?」
「温泉へ行きました」
「温泉へ……?」
「ええ」
「どこの温泉」
「さあ……」
 お銀様の追窮が急なので、茂太郎に困惑の色が現われましたから、お銀様も、ちょっと手綱《たづな》をゆるめる気になって、
「お雪ちゃんという娘さんは、幾つぐらいのお歳なの」
「そうですね、あたいは聞いてみたこともないんだけれど……十七か八でしょう」
「そうして、お雪ちゃんは誰と温泉へ行きました」
「誰とだか……」
「お前、知らないの?」
「ええ。だけども、一人で行ったんじゃないんだよ」
「一人じゃないの、幾人で?」
「三人連れで……」
「その三人は、誰と誰?」
 お銀様の追窮が、やっぱり急になってゆくので、茂太郎の困惑が重なるばかりです。
「それは、わかってるにはわかってるが、弁信さんが、いうなといったからいわれない」
「そう……」
 お銀様も、それ以上は押せなくなりました。しかし、こ
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