は再び小冊子をくりひろげて、いちいち書抜きを指点しながら、
「ともかく、こういう真実性を持った巨人が現われて来ますと、凡俗は驚きますよ。人間が生きている! というわれわれの無邪気なる驚異で済まされないのは、その立場をおびやかされやしないかという小人ばらの恐怖です。多年、糊で固めておいた自分たちの立場が、この巨人のために一息で吹き飛ばされては大変だ。そこで狼狽《ろうばい》がはじまります、そこで小人が巨人を殺しにかかります」
「どうも困りものですね、巨人も小人も、共に生きてゆくわけにはゆきませんか」
駒井が浩嘆《こうたん》すると白雲が、
「それをするには巨人が韜晦《とうかい》して隠れるよりほかはありません……ところが日蓮においては、それが反対で、巨人自身があくまで戦闘的に出でたのですからね、たまりません……しかし、この巨人は、秀吉のように、家康のように、武力を持っているわけでもなんでもなく、前に申す通り旃陀羅《せんだら》の子ですからな、ほんとうに素裸《すっぱだか》です。しかるに敵はあらゆる武器を利用することができます」
といって白雲はお茶を飲みました。そうして嘯《うそぶ》くように気を吐い
前へ
次へ
全322ページ中165ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング