「われわれの写すところは、形と色とだけの世界ですが……そこで小湊の浜辺には、あらゆる波の形が存在しているとすれば、おのずから、あらゆる波の色も存在している道理でしょう。西洋の画家は色を研究します、東洋とても色を蔑《ないがし》ろにはしませんが、形を写せば、色はおのずから出て来る道理です」
「そうはゆきますまい」
 駒井はこの時、軽い抗議を挟みました。
「どうしてです」
 白雲は熱心な眼をかがやかせて、駒井の抗議を食いとめながら、
「どうして形を写して、色が現わせないのですか」
 改めて見直すまでもなく、白雲の描いた海は、一枚として着色のものはありません、みんな墨で描いたものばかりです。その点を駒井はいいました、
「桜の花だけを描いて、淡紅《たんこう》の色が出ますか、海の動きだけを写して、青く見えますか」
「そこです――」
 白雲は膝を進ませて、
「そこです、私の描いたものにそれが現われなければ、私の恥辱です。森羅万象《しんらばんしょう》をいちいちそれに類似した色で現わさねばならぬという仕事は、私にいわせると細工師《さいくし》の仕事で、美術の範囲ではありません。私は墨で描いたこの海の波に
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