拙者共の筆では……海の怒りはともかくその髣髴《ほうふつ》をうつすことができても、その戯ればかりは、とても、とても……」
白雲は一枚一枚と、いわゆる海の戯れを駒井の眼前に並べました。
それは今までと違って、奇岩怪礁に当って水の怒るところとは打って変り、岸辺の砂浜に似たところや、板のような岩の上や、岩と岩との狭間《はざま》に打ち寄する波のあまりが、追いつ追われつしているところを描いたものです。
「ここには海の※[#「彳+低のつくり」、第3水準1−84−31]徊《ていかい》があります、ここには海の静養があります、ここには海の逃避……」
田山白雲は、着物のゆきたけの合わないこともすっかり忘れてしまいました。
「そういうふうに、小湊の海の浜辺に立つと、あらゆる水の躍動が見られるものですから、つい十日あまりを水の写生で暮してしまいました」
駒井甚三郎は始終受身で、白雲の語るだけのことを語りつくすまで聞いてしまおうとの態度です。客を好まない人も、客の性質によっては、その貴重な研究の時間をいつまでも、それがためになげうって悔いないだけの余裕はあるようです。
白雲は興に乗じて語りつづけました。
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