冊を取って、駒井の前に置くと、
「なるほど」
 駒井はそれを受取ってひもといて見ると、一枚一枚にみな海の波です。
「小湊の浜辺は不思議なところで、あそこへ立ってながめていると、あらゆる水の変化を見ることができますな。水が生きている、ということを如実に見て取ることができます。水が生きている、という言葉は面白い言葉です、私が発明したのではありません、ある片田舎《かたいなか》の子供が発明したのです。沼と、池と、水たまりのほかに知らなかった子供が一朝、海のそばへ連れて来られて、最初に絶叫したのがこれです、ああ水が生きてる! この破天荒《はてんこう》の驚異、生きてるという一語は、われわれには容易に吐くことができません。しかし、小湊《こみなと》の浜へ立って見ると、はじめて水が生きている、生きて七情をほしいままに動かしているということを、確実に感受せずにはおられません。まず脈々として遠く寄せて来る大洋の波ですな、あれが生けるものの本体で、突出する岬と、乱立する岩に当って波がくだけると怒ります……波濤《はとう》の怒りは、この世に見る最も壮観なるものの一つですね。堂々として、前路における何物をも眼中に置
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