方に向き直り、
「風呂がわいたそうですが、おはいりなさってはどうです」
「イヤ、それは有難い、なにぶんこの通りですから……」
白雲は喜んで立ち上りました。久しく湯の中をくぐらなかったので、身体《からだ》がウザついて来たと見え、お辞儀を忘れて立ち上り、
「遠慮なしに頂戴致しましょう」
「風呂場はあちらです……それから今のあの少年が世話をしてくれますが、あれは耳が聞えない聾《つんぼ》ですから、用事があったらば、手まねで差図をして下さい」
「承知致しました、それではお先に御免をこうむります」
白雲が風呂場へ立ってしまったあとで、駒井は田山白雲の画帳を、物珍しくいちいち見て行きました。
「これは見たような女だ」
駒井が、じっと見入ったのも道理、そのうちに一枚の美人の首だけがありました。
これは模写でもなければ、想像でもありません。まさしく、モデルがあって描いておいたスケッチの類である。しかもその美人の面影《おもかげ》に、どうも見覚えがある――と思ったが、駒井は、咄嗟《とっさ》には思い出せませんでした。しかし、それも、もう一枚めくって見れば、難なく解決されたことで、そこには前に首だけ写生
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