気分で、どうかしてその尖《とんが》った貧相なものにしてしまいたがる……一方はまた、美と不美とは論外に置くも、ともかくもあの特有の力は表現させてもらわなければならぬ、しかるにこの絵には少しもそれが現われていない、しかしそれが無理な註文ならば、誰にも合点《がてん》されそうな、あたりまえの人相にかいた方が無事だろうと、こういうのだ」
「論より証拠じゃないか、お前は塩尻峠で何を見ていた」
「お前こそ何を見ていた」
その時、通りかかった濠端《ほりばた》で、人が集まって大騒ぎ。二人は話をやめて、
「何だ」
「ええ、狂犬《やまいぬ》でございます」
「狂犬が、どうしたのだ」
「今、若いお侍が、狂犬を取って投げました、上の方へ遥かに飛んで、松の枝をかすめて、犬がお濠の真中へ落っこちたところであります」
「なあんだ」
何事かと思えば犬一匹のこと。仏頂寺弥助が冷笑して過ぎて行くところへ、いったん、沈んだ狂犬《やまいぬ》が浮き上って、岸の方へ泳いで来るから、
「それ、狂犬がまた出て来たぞ、浮み上ったぞ」
人だかりは八方へ散ると、血迷いきった狂犬は、仏頂寺と丸山をめがけて飛びかかったのを、仏頂寺が、
「え
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