頭の犬が、兵馬の前路をふさいでさかんに吠《ほ》え立てます。
「しッ」
兵馬が叱ったけれども、犬は容易に尾をまかないで、かえって目を怒らして兵馬に飛びかかろうとする、すさまじい勢い。
そこで兵馬は小癪《こしゃく》にさわりました。かつて、慢心和尚がいうことには、「人間は、犬に吠えられるようでは、修行が足りない」
兵馬は、この一言を思い出しました。なるほど、あの和尚は、随分奇抜な風采《ふうさい》で人の門《かど》に立つこともあるが、犬に吠えられたという例《ためし》を見なかった。人を見れば吠えつく悪犬でも、和尚がそばへ寄ると、鳴りをしずめてなついて来るのを、兵馬は実見して不思議なりとしたことがあります。
和尚にいわせると不思議でもなんでもなく、害心のないところに、敵意の生じようはずはないのだと説明する。
しかし、すべての人が犬に向って害心を持たずに近寄っても、犬のすべてが敵意を示さないという限りはない。そこに何かの修行があるのだと思いました。
今しも、こうがむしゃらに吠え立てられてみると、それが頭にあるだけ、兵馬は癪にさわってならない。つまり、この犬は、自分の修行を、頭から無視してか
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