てゾッとするほど嫌な気持がしました。
 このごろは、世間が殺伐《さつばつ》だから、芝居にも、切ったり張ったりがはやるのか知ら。
 一流の芝居はそうでもないが、年中、活動しているお茶ッ葉芝居は、へらへら役者をかり集めては、無茶に人殺しをやらせる。
 ことに沢村宗十郎が、宗十郎頭巾をかぶりはじめてから、へらへら役者共が争ってこの頭巾をかぶりたがり、切れもしない刀を抜いては嘔吐《へど》の出るような見得《みえ》を切って得意になっているのが、田舎廻《いなかまわ》りならとにかく、江戸のまんなかではやっている。兵馬は至るところで、この黒頭巾をかぶった、駈け出しのへらへら役者が刀を抜いて、へんな見得を切っている絵看板にでっくわして、自分は通人でもなんでもないが、江戸人の趣味も堕落したものだと思う。そうでなければ清元《きよもと》や常磐津《ときわず》で腐爛《うじゃじゃ》けている御家人芝居。ここへ来ても、こんなものを見せられるのか。こんなものをこしらえて持ち歩く興行師の俗悪もさることながら、こんなものを見て興がる見物が情けない。
 兵馬は正直だから、こんな下等な芝居の横行が、剣法の神聖を冒涜《ぼうとく》する
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