「ええ、煙硝《えんしょう》の煙で、お目を悪くしてしまったのだそうですよ」
「それはいけません」
「どういうわけですか、わたしもよくは聞きませんでした」
 二人がボツリボツリとこんな問答をしている間も、席を外《はず》した後家さんは戻って来ません。いったい、どこへ何しに行ったのだ。お雪もようやくもどかしくなりました。
「どうしたんでしょう、おばさん帰りが遅いですね、わたし、お暇致しましょう」
 お雪も、若い男と二人さしむかいでは気が置けると見えて、帰ろうとすると、
「まあ、いいじゃございませんか、お話しなさいまし、もうすぐ帰りますよ」
「それでも……では出直して参りましょう」
「いいえ、よろしうございますよ。それからお嬢さん、まだ本がいくらもございますから、お持ち下さいまし」
「そうですか、それではあとでお借り申しに上りましょう、御免下さいまし」
と、そこそこにお暇乞いをしてお雪は帰りますと、まもなく、自分の廊下のところに立ち止まりました。
 その中でヒソヒソと話し声が聞えたからです。はて、久助さんは下で煙草切りをしているはず。あとは先生一人でいたはず。そこでヒソヒソと話し声がしたもの
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