を飛び廻って、
「さきほど、あなたのおっしゃったことを、もう一度お聞かせ下さいまし、私に代ってあれを斬ってみようとおっしゃったのは、御冗談《ごじょうだん》でございましょうね。もし、御冗談でございませんでしたら、お取消し下さいまし。あやまります、あやまります、このように……」
 それでも竜之助は返事をしませんでした。返事をする必要がないからでしょう。そこで男妾はまた立ち上って、
「本当のことを申しますと、私もあれが好きなんでございます、年こそ違っておりますけれど、たまらない親切なところがあるんでございますから……生かすの殺すの、それはあなた、一時の比喩《たとえ》、夫婦喧嘩同様な愚痴をお聞かせ申しただけなんでございますから、どうぞ……」
 竜之助のつめたい面《かお》に、抉《えぐ》るように微笑ののぼって来たのはその時です。

         十六

 山地は寒《かん》の至ることも早く、白骨《しらほね》の温泉では、炬燵《こたつ》を要するの時となりました。
 この頃、男妾の浅吉は、別な心持で落着かなくなりました。
 というのは、後家さんの圧迫をのがれよう、のがれようと苦しんでいた男妾が、かえっ
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