殺せれば、殺したいのだが、その力がないとこういったな」
「ええ、その通りでございますとも、自分が殺されるか、あの婦人を殺して助かるかの境でございますが、私は意気地なしで、とても人を殺すことなんぞはできませんから、みすみすあの婦人にいびり[#「いびり」に傍点]殺されてしまうんです」
「よろしい、それでは、わしがお前の代りに、その女を斬ってみよう」
「えッ」
 その時、男妾はゾッとして、
「えッ、ただいま、何とおっしゃいましたか」
 竜之助の、たったいま言った一言を思い返そうとして、まずふるえ[#「ふるえ」に傍点]が先に立ちました。
 冷罨法を施している竜之助は、二度とはそれに答えようとせず、男妾のみが、無暗にふるえ出してせきこみ、
「私に代って、あなた様が、あの婦人を斬っておしまいになる、殺して下さる、それは本当ですか。それは怖ろしいことです、その怖ろしいことを、あなた様が、私に代って、そうして……」
 男妾は自分でせきこんで、自分で咽喉《のど》をつめてしまいました。
「本当でございますか。人を殺せば自分も助かりませんね、これを御承知でございますか。色事は冗談でございましょうとも、人を殺
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