うと思う慾があったから、こうなってしまったんでございますが、これで私には、国に妻子が残してあるんでございます、どうかして逃げるくふうはないものでございましょうか、ただいまにも、私を逃がしていただけないものでございましょうか、お願いでございます」
馬鹿な奴だ! 意気地のない骨頂《こっちょう》の奴だ。つまり富裕な後家さんからたらされたのを機会に、甘い汁を吸おうと思って、御意《ぎょい》に従ったのが仇《あだ》となり、さんざん、おもちゃにされて精根《せいこん》を吸い取られ、逃げ出しては取つかまり、取つかまり、どうにもこうにも所在が尽き果てて、人の顔を見れば助けを求めているのだ。そこで竜之助は、
「せっかくですが、拙者にも智恵がありません」
男は泣かぬばかりに、
「弱りました、全く弱りました、この分では、私は殺されてしまいます……いっそ、女を殺してと思いましたけれど、私にはそれだけの力がございません、ああ、もうやがて帰って参りましょう、私は、怖ろしうございます、私はあの女の息をかぐのが、大蛇《おろち》の息をかぐような気持がします、あの女にそばへよられると、道成寺《どうじょうじ》の鐘のように、私
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