まで重ねて、おずおずと入って来たのは、二十二三の色の白い、羽織じかけの気の利《き》いた商人風のやさ[#「やさ」に傍点]男であります。
「実は、私は困ってしまいましたものですから、お見かけ申して、あつかましくもお願いに上ったわけなのですが……早く申しますと、私はここを逃げ出したいのでございますが、どう逃げ出したらよろしうございましょう、お察し下さいまし」
 その語尾が、おろおろ声になるほどの嘆願でありましたから、ははあ、これは例の男妾だなと竜之助が思いました。
 その話は、もうお雪から聞いていたのです――
「あの後家さんは男妾を連れて来ているんですって。かわいそうに、その男妾というのは、逃げ出したがって、逃げだしたがって、弱りきっているんですって」
とお雪が、前の晩に竜之助に向って、笑いながら話したことでした。
 それが、この隙《すき》を見て相談に来たのだな、笑止千万なことだと思っていると、その男はにじり寄って、
「恥をお話し申さないとわかりませんが、実はあの婦人につかまりましたのも、私の方にも落度《おちど》がないとは申されませぬ……私の方にもあの後家さんをため[#「ため」に傍点]にしよ
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