いのだ、と気がつきました。
花にも、手際にも、難があるのではない、この室そのものが、花と、手際とにそぐわ[#「そぐわ」に傍点]ないのだ。つまりこの室が悪いのだという結論になりました。
ですから、この室を作り変えない以上は、この花に得心がゆくべきはずがない。室を作り変えるのは、家を作り変えるのだ。問題が、そこまで行くと、お銀様も不本意ながらこのままで安んずるほかはありません。
そんならば、この室のどこが悪いのだ、一見したところで、無理に作られているとも思われない。仔細に見たところで、世間並みの書院造りの手法様式と変ったものが、あろうとも思われないが、どうも気分そのものが気に喰わない。
と思って、見廻しているうち、ふと、お銀様の眼にとまったのは、床の間に立てかけであった、長い白鞘物《しらさやもの》です。これは、お寺の床の間には似つかわしからぬもので、今までお銀様が気がつかなかったのは、燈火《あかり》の具合で、隅の柱に隠形《おんぎょう》の印《いん》をむすんでいたからです。
お銀様は、ようこそあれと、その白鞘の長物をとって、自分の膝の上まで持って来ましたが、やがて行燈《あんどん》の下
前へ
次へ
全322ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング