た理由は、私にも思い当ることがないではございませんが……」
といって弁信は、何か思案にくれました。
三
月見寺の一室に控えているお銀様は、ふと床の間に目をつけて、その草花を生《い》け替える気になりました。
というのは、青銅の大花瓶に乱雑に投げ込んである秋草は、多分清澄の茂太郎あたりの仕事だろうが、無論、式にも法にもかなってはいない。そこで、お銀様が見かねて、それを整理する気になったのです。
かなり丹念に、花と枝を整理してゆくと、見ちがえるばかりのあざやか[#「あざやか」に傍点]なものとなりました。
それでもお銀様は、まだ不足なものがあるように、活《い》け終った草花を、ためつすがめつ[#「ためつすがめつ」に傍点]して、ながめていること暫し、ここといって改めたいところはないが、そうかといって、これだけでは物足りない心持を、どうすることもできないらしい。
これは、どうしたものだろう。お銀様は、花を活ける手際には、相当の自信を持っているつもりなのに……
結局、これは、自分の活け方の悪いのではない、この方式で活けた花は、この室内にはうつら[#「うつら」に傍点]な
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