「星は雨の降る穴だ」
と教えられた時分に、ふと清澄山の頂《いただき》で、海の上高く、無数の星をつくづくとながめて、
「穴ではない、星だ、星だ」
と叫んだのが最初で、それからこの子は、天界の驚異のうちに、星の観察を加えました。
見れば見るほど、星の正体がこの子供には神秘にも見え、また親愛にも見え出して来たので、月を迎えに出るのを口実に、ほんとうは星の数をかぞえて帰ることが多かったものです。
もとより、この子は、天文の観察を、少しも科学の基礎の上には置いていない。
「あの星がいちばん光る」
という直覚の第一歩から踏み出して、それを標準に、夜な夜なの変化を観察して、その記憶を集めているうちに、
「動かない星がある」
という第二段の知識で、北極星を認めたことから進み、今では星座の知識をほとんど備えて、普通の肉眼では六ツしか見えないという牡牛座《おうしざ》の星も、この少年には、たしかに十以上は見えたものらしい。
星は決して雨の降る穴ではない、どの星も、この星も、おのおの独立した個性を持って大空に光っていると見たこの少年は、昔の杞国《きこく》の人が憂えたと同じように、いつあの星が落ちて来な
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