と、真紅《まっか》な縮緬の前掛が燃え出したようにうつり合いました。
「伊勢から来たというわけでもないが、伊勢には暫くいたことがあるのだ」
「それでは間《あい》の山《やま》をごらんになりましたか」
「間の山は見ないけれど、間の山節というのを聞いたことがある。そういうお前こそ伊勢の国のうまれか」
「わたくしは伊勢のうまれではございません、どこといってうまれた国は……まあ、渡りものなんでございますね」
「渡りもの?」
「ええ、お恥かしい話ですが、男に欺されて諸国をひきまわされたあげく、今ではこうして信州の諏訪へ来て物売りを致しておりますようなわけでございます。女というものは、水性《みずしょう》なものでございますから、男次第でどうにでもなります。ほんとうに意気地のないものでございますね、オホホホホ」
 この時の女の言葉には、触《さわ》れば落ちるような甘味をふくんでいたので、竜之助は暫く沈黙しました。
「ねえ、旦那様、おついでにお面《かお》の方も、もう一ぺんあた[#「あた」に傍点]って上げましょうか。殿方のおあたりになったよりも、これでも女の方が、手ざわりがいくらかやわらかになるかも知れません。
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