御免下さいまし」
 そのやわらかな手を、首筋から頬のあたりへうつした時に、竜之助の面《おもて》がひときわ蒼白《あおじろ》くなりました。
「もうよろしい」
「どうも失礼を致しました……いいえ、お代はあとで帳場からいただきます」
といって、女が出て行ってしまったあとで、竜之助は、自分の身に残るうつり[#「うつり」に傍点]香《が》といったようなものに、苦笑いをしました。
 これは売女《ばいじょ》の類《たぐい》だ。物を売ることにかこつけて、色を売らんとする女。よく温泉場などにあった種類の女――おれをそそのかしに来たのがおぞましい。
 とはいえ、今の竜之助にあっては、女というものの総ては肉である。美醜をみわけるの明《めい》を失っているから、美のうちに貴《たっと》ぶべきものの存するのを発見することができない。醜を感知するの能を失ってから、醜の厭《いと》うべきを知って避けるの明がない。
 いや、それは単に女ばかりではあるまい。この男は、すべてにおいて、むずかしくいえば、宗教がなく、哲学がなく、またむしずのはしる芸術というものがない。ただあるものは剣だけです。勝つことか、負けることかのほかに生存の理由
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