かには、不思議と紅毛人は見えないで、どれを見ても見慣れた黒髪銅色の人種、多くはこれ生え抜きの日本人でありますが、そのなかに注意して見ると、少し毛色の変ったのが二三枚、働いている。
無口で働いている――春日長次郎はその二三枚を呼ぶたびに、何か早口で、わからないことをいってしまうと、彼等は直ちに頷《うなず》いて、手早く持場持場の仕事につきます。
さりとて、これは断じて欧羅巴《ヨーロッパ》種ではない。その皮膚は蒙古種族よりはズット黒いけれども、当時の日本人が夢想しているような裏も表もわからない黒ん坊とは違って、よく見なければ、西洋人でさえもモンゴリアンと見るほどに色彩が不鮮明ですけれども、たしかに蒙古種に属する印度人か、そうでなければ印度とそれに近い他人種との混血児《あいのこ》に相違ない。ただ彼等は、しきりにその混血児であることを隠して、日本人らしく思われようとする素振《そぶり》がある。
そのほかには、どうしても眼の色を隠すことのできない子供が五六名、赤い土耳古帽《トルコぼう》をかぶって、隅っこにかたまって、ハーモニカを吹いているところへ、例の春日長次郎――広袖の縫取りのある襦袢《じゅ
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