か、それとも人間か。
 お銀様が思い乱れている時に、不意に轟然《ごうぜん》として、山谷をうごかす一発の銃声が起りました。
 この鉄砲の音はいずれから起ったかわからないが、その一発の音が起ると、さしも昼を欺《あざむ》くほどに焚かれていた篝火が、ほとんど一度に掻消され、同時に歌舞音曲の賑いはパッタリとやみ、人が闇中を右往左往にうごめき出す。ただその右往左往にうごめく人が、枚《ばい》をふく[#「ふく」に傍点]んだ夜討のように、一言も声を立てないで、踊りの庭と幕屋の内外を走り廻り、物を掻集め、ひきほどきひきむすんでいる体《てい》は、まさしく隊を組んでこの場を走ろうとする形勢であります。
 お銀様だけは、どうすることもできません。幸か不幸か忘れられていました。眼前の幕屋でさえも、手早く引きほごされて、荷ごしらえをされる有様なのに、忘れられたお銀様は、ただ怖ろしい夢の中で、走れない人のように気を焦立《いらだ》つけれども、この場合、助けを呼ぶのが利益か不利益かはわかりません。すべてが沈黙して暗中にどよ[#「どよ」に傍点]めいている時。
 つづいて山谷にこたゆる第二発目の鉄砲。
 その谷間より程遠から
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