》に姿を見せているばかりです。
 この時、猩々は再び立ち上って仮面《めん》の下より、
「いざ、このたびは天《あま》の返矢《かえりや》を舞おうずるにて候ぞ」
「心得て候」
 またも、一同が入りみだれて、舞の庭に立ち上る。狩衣《かりぎぬ》、差貫《さしぬき》ようのもの、白丁《はくちょう》にくくり袴《ばかま》、或いは半素袍《はんすおう》角頭巾《かくずきん》、折烏帽子《おりえぼし》に中啓《ちゅうけい》、さながら能と神楽《かぐら》の衣裳屋が引越しをはじめたようにゆるぎ出すと、笛と大拍子大太鼓がカンラカンラ、ヒュウヒュウヒャラヒャラ。
「そもそも、天の返矢といっぱ……」
 そこで踊りの面々が、おのがじし踊り出すと、恵比須《えびす》の面《めん》をかぶったのが、いちいちその間を泳いであるいて、この踊りを訂正する。手のさし方、足の踏み方を、模範を示して直してあるく。すべてが一心を打込んで踊っているうち、ひとり、例の猩々だけは踊らない。自然木《じねんぼく》の切株に腰うちかけ、中啓を以て踊りの庭を監督している体《てい》です。この時、不意に谷の一方に、けたたましいさけびが起って、一団の人が罵《ののし》りながらこ
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