不思議な囃子でございます」
「しかし、さほど遠いところでもないようだが」
「左様でがす、どこで聞いても同じように聞えるんで。三里遠くで聞いても、五里遠くで聞いても、あのくらいに聞えるんでがすよ。お化けか、そうでなければ天狗様のいたずらでがんしょう」
「お前は、それを調べてみましたか」
「いいえ、そういうことはしてみましねえ」
「さまで遠くはないようだ」
九
けれども、響きがあって物のないという道理はありますまい。これをお化け囃子と名づけ、天狗のいたずらと怖れてしまうのは、それを究《きわ》める人に、究めるだけの勇気と根気とがないせいでありましょう。
現に、陣馬、和田、熊倉、生藤《しょうとう》の間に囲まれた谷の中に、篝《かがり》を焚いて、カンラカンラと鼓を打ち、ヒューヒューヒャラヒャラと笛を吹いている一団があるのであります。
ここに篝を囲むほどの連中が、みな仮面《めん》をかぶっている。鼓を打ち、笛を吹き、鉦《かね》を鳴らすものも、みな仮面をかぶっている。その仮面は、ありふれた里神楽の仮面もあれば、極めて古雅なる伎楽《ぎがく》の面《めん》に類したのもあるが、打見た
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