ね、その思い出にひとつ、しっかり[#「しっかり」に傍点]やって下さいな。なあに、今までだってこれが嫌いというわけじゃなかったんですが、河童《かっぱ》のお角さんてのがあったでしょう、同じ名前ですから、気がさしてね。恥かしいっていう柄じゃありません、真似をしたように思われるのが業腹《ごうはら》でね。こう見えてもわたしゃ、真似と坊主は大嫌いさ。今までだってごらんなさい、そう申しちゃなんですけれども、人の先に立てばといって、後を追うような真似は決して致しませんからね。よその人気の尻馬《しりうま》に乗って人真似をして、柳の下の鰌《どじょう》を覘《ねら》うような真似は、お角さんには金輪際《こんりんざい》できないのですよ。ですから、今度だって、外《はず》れりゃあ元も子もないし、当ったところで嫉《ねた》みがあるから、身体をどうされるかわかったものじゃなし、どのみち骨になるつもりで乗りかかった仕事ですから、その思い出に素敵に大きな骸骨の骨《あたま》を一つ彫っていただきたいと、こう思いついただけなんですよ……何ですって、骸骨だけじゃ色が入らないから淋《さび》しいでしょうって? なるほど、それもそうですね。
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