たびの大魔術のことになって、お角という女の親分肌を、口を極めて讃美にかかりましたから、お絹がいよいよ不機嫌になってしまいました。
来る奴も、来る奴も、ロクなことはいわない。この女の前で、ほかの女、ことにお角を讃めるのは、この女をコキ下ろす結果になるということを、御当人ほどに誰も気がつかない。お角の腕を認めるのは、つまりこの女の働きのないことを当てこす[#「こす」に傍点]る意味になるのを、誰も御当人ほどに受取らない。
そうでなくても、このごろは、食い足りないことばかりで、焦《じ》れったがっている。当座の安心のために、福兄に身を寄せてはいるが、福兄に、わが物気取りでヤニさがられているのが嫌だ。
そうかといって、謀叛《むほん》を起そうにも、今はちょっと動きが取れないことになっている。当座の腐れ縁とはいえ、一人の男を守っている現在の意気地なさに、自分ながら愛想《あいそ》がつきる。それも大した男ならトニカク、福兄あたりでは自慢にもならない。ところへ、向《むこ》う河岸《がし》では盛んな景気で、思う存分の腕を揮《ふる》っている上に、聞き捨てにならないのは、お角が駒井能登守ほどの男を自由にしてい
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