。それを知りながら福村が賞讃をあえてするところを見ると、ともかく、よくよくあの女の手腕《うで》に感心したものがあればこそと思われる。
「ところが今度という今度は、恥も外聞も捨ててかからないんだからな。渡りはつけてみたが、トテも昨今のあの女の手には負えまいと、こう見くびっていたところが案外なもので、物の見事に背負《しょ》いきったのみならず、その手際のあとを見せないあざやかさには、全く恐れ入ったよ。たしかに手腕《うで》はある女だ」
「そりゃあ、蛇《じゃ》の道は蛇《へび》ですから、血の出るような工面《くめん》をしても、一時の融通はつきましょうさ。その日その日の上りを見込んでする山仕事と、末の見込みをつけてやる仕事とは違いますよ。線香花火みたような仕事を喜ぶのは子供みたようなものでしょう、女だてらに山かん[#「山かん」に傍点]は大嫌い」
「してみますと、お絹様、あなた様は、末の見込みのついた仕事をやっておいでになりますのですか」
「存じません」
「お怒り遊ばしますな、なにも、拙者があの女を賞めたからとて、あなた様をケナ[#「ケナ」に傍点]すわけでもなし、また、あなた様に、あの女のような真似をし
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