ずに、巧妙ないい廻しをして味を持たせたつもりで下へおりて来ました。
これはお角としては、甚だしい手ぬかりで、すっかり裏を掻《か》かれていることを気がつかないで、すべてを手の内へまるめておく気取りでいるのが、笑止《しょうし》といわねばなりません。
この一件にしてからが、お角としては最初から、金助のようなおっちょこちょい[#「おっちょこちょい」に傍点]を使わずに、七兵衛なり或いはがんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵なりに頼むべきはずのところを、なにしろ、あの二人あたりは役に立つ代りに、役に立ち過ぎる憂いがある。おっちょこちょい[#「おっちょこちょい」に傍点]ながら、金助ならば使ってさのみ毒になるまいと、たかをくくったのがお角の誤りでした。おっちょこちょい[#「おっちょこちょい」に傍点]は到底おっちょこちょい[#「おっちょこちょい」に傍点]以上のことをしでかさず、味のあるところを、前以てべらべらと喋《しゃべ》ってしまったのですから、お角に残されたところは骨と皮ばかりです。それを骨とも皮とも知らずに、たんまりと貯えているつもりのお角の気取り方は、近来にない失策です。
しかし、その失策は
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