ま》い込み、そのまま逃ぐるが如く銭湯へ駈け込んで行ったそのあとへ、お角が帰って来ました。
お角の帰ったのが遅かったのです。廻り道をしなければ、こんなこともなかったでしょうが、一足遅く戻って見ると、金助は風呂へ飛び出したあとでしたけれど、すべての気配《けはい》でそれと知り、お梅から聞いて軽く頷《うなず》き、
「それでも、つかいようによっては相当に役に立つ」
という、いささかながら誇りの色さえも見えました。そのうち、金助は風呂から戻って来て、歯の浮くような軽口と追従《ついしょう》を並べましたけれど、二階へ呼び上げられたということは、話しもしなければ語りもしません。
そこで金助は、お銀様に物語った一条を、お角にも漏れなく物語って、ともかくも相当に成功したことを煽《おだ》てられ、やがて大機嫌で、この家を辞して行きました。
本来ならば、それをとりあえず、お角がお銀様に報告すべき筋合いなのを、どうしたものかお角はヒドクおちついて、待ち兼ねている人を持っている態度とは見えません。ようやく二階へ伺候《しこう》して話を切り出したには切り出したが、金助がお銀様にあらかじめ白状してしまった要領には触れ
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