が、どうしても茫漠《ぼうばく》として当りがつきませんでしたが、とにかく、これだけのことをお知らせ申しておいて、また出直しを致そうかとこう考えて、大急ぎで飛んで参ったんでございます」
「一人はハッコツへ、一人はコブシへ?」
「はい、そのコブシというのは、つまり甲斐と武蔵と信濃の三国にまたがる甲武信《こぶし》ヶ岳《たけ》の方面かと存じますが、一方のハッコツが、どうしても見当がつきませんでございます。万用絵図を調べてもハッコツというところはありませんそうで……」
 お銀様も、それに耳を傾けて胸をおさえました。事実、コブシは甲武信《こぶし》に通ずるが、ハッコツは何の意味かわからない。さてコブシの方面へ分け入ったという人と、ハッコツへ向け出立したという者と、いずれがいずれかわからない。
 ともかく、金助をしていうだけのことはいわせてしまったから、お銀様は空辞退《そらじたい》をする金助に金包を持たせ、最後に、あらかじめ、こんなことを尋ねたということを、お角にはだまっているように口どめをして、許してやりました。
 金助は、下へおりるとホッと息をつき、何の意味か舌を出して、こそこそと金包を胴巻へ蔵《し
前へ 次へ
全288ページ中51ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング