、お前は、その坊さんを尋ねに行ったのではないのでしょう」
「いかさま……そこで結局その要領が申し上げにくいことになってしまったんで……エエと、二三日前まで、そのお寺に御逗留になっていたことは確かで、そこをお立ちになったことも確かなんでございますが、どうも、そのどこへ、誰に連れられて行きましたか、つまりその行方が……」
 いよいよしどろもどろなのは、この男のことだから、ワザと焦《じ》らすつもりかも知れない。お銀様は気色《けしき》ばんで、
「そこまで尋ね当てて、どうして、その先がわからないのです、役に立たない……」
「いいえ、どう致しまして」
 お銀様から威嚇《いかく》されて、金助はワザとらしい恐縮を見せ、
「それから先を、どう鎌をかけても、坊さんは、ハッキリと言ってくれませんから、あきらめて門前の爺さんをつかまえて、口うらを引いてみましたところが、その返事で、またまたこんがらがってしまいました。と申しますのは、その前後に、お寺を出て旅立ちをしたものが二人ありますんだそうで、一人はハッコツへ、一人はコブシへ参りましたとやら。さて、その二人のうちいずれが、あなた様の尋ねるお方だか、それから先
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