。お前さんが帰ったら、これを差上げようと思っていました、ほんの少しばかりですけれど」
といってお銀様は手文庫の中から、事実金助の前には少しばかりではない金包を取り出して、奉書の紙に載せて無雑作《むぞうさ》に金助の前に置いたものです。それを見ると、金助が、いたく狼狽《ろうばい》をして、眼の色が忙しく動き出し、
「そんなことをしていただいちゃ申しわけがございません、旅費のところもお角さんの手から、たっぷりといただいてあるんでございますから、その上こんなことをしていただいちゃ恐れ入ります。しかし、お嬢様、金助も頼まれますと、無暗に肌を脱ぎたがる男でございましてね、自慢じゃございませんが、事と次第によっては、目から鼻へ抜ける性質《たち》なんでございますよ。今度のことなんぞも、お角さんから頼まれますと、早速、当りをつけたのが、まあ、聞いていただきやしょう、とても、そりゃその道で多年苦労をした目明《めあか》しの親分|跣足《はだし》ですね、全く予想外のところへ目をつけて、そこから手繰《たぐ》りを入れたところなんぞは、我ながら大出来、ここの親方にも充分買っていただくつもりで、寄り道もせずにこうして駈け
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