下さいまし、お嬢様」
「金助さん」
「はい、金助でございます」
「どうぞ、ここへお上りください、お前さんにぜひお聞き申したいことがあります」
「御免を蒙《こうむ》りまして」
「御遠慮なく」
金助は、全く怖る怖る二階の間へ通り、キチンと跪《かしこ》まって、恐れ入った形をしていると、いつもの通りお高祖頭巾《こそずきん》をすっぽりとかぶ[#「かぶ」に傍点]ったお銀様は、行燈《あんどん》の光に面《おもて》をそむけて、
「もう、少しこちらへお寄り下さい」
「ええ、ここで結構でございます」
勧める蒲団《ふとん》も敷かずに金助は恐れ入っている。
「金助さん、お前は、お角さんから頼まれたことがあるでしょう」
「ええ、あるにはありますがね……」
「あれは、わたしからお角さんに頼んだことなんですから、それを隠さずに、わたしに話して下さい」
「左様でございますか。いや、薄々《うすうす》その儀は承って出かけましたんですが、一応はここの親方の方へ申し上げまして、親方の口から改めてあなた様のお耳へ入れるのが順かと、こう思いましたものですから」
「いいえ、それには及びませぬ、かまいませんから隠さずに話して下さい
前へ
次へ
全288ページ中46ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング