の待遇で、本来ここの住居《すまい》は、お角のためには隠れたる休養所で、懇意な人でも滅多には寄せつけないのに、このおっちょこちょい[#「おっちょこちょい」に傍点]に限って、少々もてなされ過ぎている。
浴衣《ゆかた》を着せられて、七ツ道具を持たせられ、有頂天《うちょうてん》で、金助は風呂へ出かけようとすると、
「梅ちゃん、梅ちゃん」
この時、二階で人の声。
「はい」
お梅が返事をして二階を見上げると、金助も変な面《かお》をして、出かけた二の足を踏む。
「ちょっと来て下さい」
二階でお梅を呼ぶのはお銀様の声です。
「金助さん、お嬢様が、ぜひお前さんに会いたいんですとさ、お湯へおいでなさる前に」
「え、お嬢様が、わっしに御用とおっしゃるんですか」
二階から下りて来たお梅は、風呂へ行こうとして下駄を突っかけている金助の袖をとらえました。
そこで金助は怖々《こわごわ》と引返して、二階を見上げ、
「よろしうございます、お嬢様だって、なにもあっしを取って食おうとおっしゃるわけでもござんすまい」
七ツ道具を下へ置いて、浴衣へ羽織を引っかけたままで、恐る恐る二階へのぼりはじめました。
「御免
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