盗賊のやるようないたずら[#「いたずら」に傍点]はよせ」
と言ったものがあると、四人のなかの一人が抜からず、
「いずれそれをやって見せるが、今はその手習いじゃ」
 そこで、この一座の対話が、江戸城の本丸へ火を放《つ》ける、その実際の手段方法にまで進んで行ったのは怖るべきことです。この怖るべき相談が事実となって現われたのも、それから幾らも経たない後のことであります。それから彼等の巣窟たるこの四国町の薩摩屋敷が焼打ちになって、江戸を追われたことも、いくらもたたない後のことであります。

         五

 それはそれとして、再び前に戻って、ここにまだ疑問として残されているのが、両国の女軽業の親方お角の、このたびの、旗揚げの金主となり、黒幕となった者の誰であるかということで、これはその道の者の専《もっぱ》らの評判となり、またお角の知っている限りの人では、これを問題にせぬ者はなかったが、誰もその根拠を確《しか》と突留めたものがありません。
 神尾主膳や、福村一派の現在は到底、逆《さか》さにふる[#「ふる」に傍点]っても融通がつこうはずはなし、以前、柳橋に逗留《とうりゅう》していた時代の駒
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