糸を引いているという説もあるが、益満それ自身もただ糸を引かれている人形ではあるまい。
 さいぜん、大手を振って門内に通過した四人の壮士、この席へ来ても無遠慮に一座の中へ、むんずと坐り込み、まず見て来たところの西洋の大魔術の披露、普通弁と薩摩弁でしかたばなしまでしての土産話《みやげばなし》は無難であったが、無難でないのはそれに続く自慢話であります。
 この四人の壮士どもは、今しも、大得意になって、本所の相生町から三田の四国町までの間の彼等の道草、その途方もない、いたずら[#「いたずら」に傍点]話を憚《はばか》る色なく並べ立てたことです。四カ所に放火して、ある所は大事に至らしめ、ある所は小事で終らしめたが、ともかくも人心を騒がして来たことを手柄顔に説明すると、それを興ありげに聞いていたものと、不足顔に聞いていた者とあって、
「ナーンだ、くだらぬ人騒がせ、つまらぬいたずら[#「いたずら」に傍点]、そうして下《した》っ端《ぱ》をおどかしてみたところが何だ。トテモやるなら、あの将軍の本丸まで届くほどの火を出せ。本丸から火を出して、グラついた江戸城の礎《いしずえ》を立て直すほどの火を出してみろ。小
前へ 次へ
全288ページ中35ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング