んで、
「皆さん、ただいま」
 多分、そういったような、晴々しい呼び声で、一同が甦《よみがえ》ったように、その少女を取囲んで、
「おお、マルガレット、無事か」
といったような歓声が起る。少女は、息をはずませて何か口早に物語をすると、老若男女が皆、背伸びをしてそれを聞こうとする。少女の物語は、何か多少の恐怖から解放されて来たもののような表情であります。その物語を聞いてしまうと、老若男女が、また歓声を揚げる。そのうちにも以前の若者らは強がりの身ぶりをして、騎士らの立去ったあとを睨まえて、腕をさすって見せる。そのうちに子供たちがギターを鳴らしはじめると、一同が浮かれ出す。右の少女が、
「では皆さん、踊りましょう」
といったような声で、タンバリンを振り鳴らして自分が真中で、めざましい踊りをはじめると、老若男女がそれを囲んで、総踊りに踊って踊りぬくと幕。
 駒井甚三郎は、その一幕を見終ると、帰ると言い出しました。
 もう一場、あとの本芸をぜひ――というのを振切って、お松を連れて、この小屋を辞して、お角に後日の面会を約して己《おの》が宿所へと立帰りました。

         四

 ジプシー・ダ
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