ついには山の神連まで、浮かれて踊る。すべて踊って歌って大はしゃぎになっているところへ、遽《にわ》かに注進らしいのが来る。そこで口早に人々に告げると、皆々|狼狽《ろうばい》して逃げ隠れようとする。
そこへ、花やかな騎士が、従者をつれてやって来ると、ジプシー族は異様な眼をしてそれを眺める。花やかな騎士は、人の名を呼んで誰かをたずねるらしい。ジプシー族はみな首を振って知らないという。騎士と従者は失望して行ってしまう。
ジプシー族は、それを見送って、何かしきりに言い罵っていたが、若い者のうちには、腕を扼《やく》して、そのあとを睨《にら》まえ、追っかけようとする素振《そぶり》を示す者がある。老巧者がそれをささえる。子供は頓着なしにギターを掻き鳴らす。けれども以前のように浮き立たない。
そこへ賑やかな鳴り物が入って、蝶の飛び立つように入って来た一人の少女があった。
黒い髪、ぱっちりした瞳、黄金色《きんいろ》の飾りをしたコルセット、肩から胸まで真白な肌が露《あら》われ、恰好のよい腰の下に雑色のスカートがぱっと拡がると、その下から美しい脛《はぎ》が見える――この少女は息せききってこの場へ駈け込
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