点]をくくっていたのです。
「オレ[#「オレ」に傍点]のだい、オレ[#「オレ」に傍点]の下駄だと、先刻《さっき》からいってるじゃねえかよう」
 こういう場合の噛《か》み合いの特長は、きまった相手というものがなく、最も手近なところにあるありあわせの頭がその相手であります。喧嘩の上手というのは、最も僅少の時間に、最も多くの頭をなぐり、素早く身をひく人間のことで、その最も拙劣なのは、最も多くなぐられながら、その一人の相手をもつかまえることのできない人間であります。
 しかし、下手も上手も、共に一時《いっとき》で、お角の見込み通り大事に至らずして、やがて、この活劇もおしまいになり、千秋楽のお景物として、一つの愛嬌を添えたもののように消滅してしまったのは、いよいよ市《いち》が栄えたと申すものです。
 それをお角はひややかに笑い捨てて、ざっと場内をめぐり歩くうち、ふと、例のところへ来て、場外を見ると、以前にながめた通り、そこは回向院境内の墓地であります。
 お角のながめることがもう少し早かったならば、そこに以前の一行がおまいりに来ていて、ことにその中には、お角の熟知しているムク犬も加わっていたこと
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