、さむらい[#「さむらい」に傍点]の問いに答えました。
「主人は留守か」
「はい」
「代稽古はいないか」
「おりませんでございます」
そこで、旅のさむらい[#「さむらい」に傍点]は残り惜しげに道場のまわりをうろつい[#「うろつい」に傍点]ているから、
「まあ、お休みなさいまし、ただいまは誰もおりませんけれど、道場を御覧になるならば、あけてお見せ申しましょう」
と与八がいいますと、さむらい[#「さむらい」に傍点]はよろこばしげに、
「それは有難い、せっかくのことに道場の中を一見させてもらいたい」
与八が裏の戸口から入って、道場をあけてやると、さむらい[#「さむらい」に傍点]は草鞋《わらじ》をとって、道場の内部へ入って来ました。
「ははあ、なかなか結構なものだ」
と道場の内部の整っていることを見て、旅のさむらい[#「さむらい」に傍点]は感嘆し、
「誰も代ってこの道場を預かるというものはないのか」
「どなたもございません」
「誰か、あの男の生立《おいた》ちを知っているものはないか」
「生立ちと申しますのは……」
「あの男の子供時代のことだ、いや、それよりも親の時代のことから……」
「左様
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