て立札を立てにかかる。
 その立札には、「杉苗何百本、何千本、何の誰」と一枚一枚に書いてある。
「は、は、は、は」
 半ぺん坊主は、思い出したように高らかに笑い出し、
「高尾では、あの杉苗をいったいドコへ植えるんだと、この間、まじめに聞かれたんで、わしも弱ったよ」
 杉苗寄進の立札が、半ぺん坊主には、なんだか急におかしくなったものと思われる。
 この山では、何町の間、隙間もなく、杉苗寄進の札を立ててはあるが、ドコへその杉苗を植えるのだか一向わかっていない。
「お愛嬌《あいきょう》ですよ。あれをお前さん、正直に受取った日には、一年に関東八州が三ツあったって足りやしませんよ……植える方はどうでもいいが、切る方はせいぜい切らしていただいて……」
 半ぺん坊主は、額を丁と叩きました。
「切る方はせいぜい切らしていただいて、カラカラカラッと景気よく……ナニ、一木一草をも愛護して下さいだって、木を傷つける人があったら止めて下さいだって……笑いごとじゃありませんよ、木を伐らないで車が仕掛りますか」
 半ぺん坊主はこの時、腰衣《こしごろも》の上へ酒をこぼしたので、あわててそれを拭い、
「もっとも、これ
前へ 次へ
全288ページ中254ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング